第23回

動物介在療法~ウマがヒトにもたらす恩恵

2019年3月10日

今回のナルホド対談では、東京農業大学農学部において動物介在活動をご専門に行なわれている川嶋 舟先生をお迎えしました。ホースセラピーを取り巻く環境や活動におけるお話をたくさん伺いました。

対談者プロフィール

川嶋舟

川嶋 舟(かわしま・しゅう)
1998年 麻布大学獣医学部獣医学科卒業獣医師
2004年 東京大学院農学生命科学研究科獣医学専攻博士課程修了 博士(獣医学)
2005年 東京農業大学農学部講師
2006年 東京農業大学農学部バイオセラピー学科動物介在療法学研究室講師
2018年 東京農業大学農学部デザイン農学科生活デザイン農学研究室 准教授

動物介在療法の現在

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下薗:動物介在療法について、2006年 シモゾノ学園年次大会の講演にご登壇いただいた後、変わったことはありますでしょうか。

川嶋:大きく変わったと思うのは2011年の東日本大震災です。私自身も福島県で被災し、支援活動をするなかで、ヒトというのは生きていく上で何かの役割がないと生きづらいということに気が付きました。
 ホースセラピーで社会と関わるキッカケを作れたとしても、適応できずに戻ってきてしまうことがあるのは何故だろう、と改めて今まで感じていた疑問について考えました。社会で自立できること、社会と関わり続けられること、居場所があること、生きがいを見つけることが必要だということに気が付き、自立支援、就労支援まで考えるようになりました。

下薗:点と点を繋いで、広げていったということですね。

川嶋:私が関わるホースセラピーの対象者についても広がりました。障がいを持たれている方だけでなく、社会で生きにくさを感じる、高齢者、ひきこもり、うつ、不登校、虐待、PTSDを抱えている方、受刑者の社会更生も考えるようになり、対象者は非常に広がりました。これらを含めて実際にホースセラピーをするときの一つの目指す所となり、私自身のアプローチも変わってきました。

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下薗:川嶋先生ご自身、ということは周りに関わる方々にも変化があったのでしょうか。

川嶋:はい、周囲にも変化がありました。今まで以上にいろいろな方に協力頂けるようになりました。どのように自立に繋げるかにアプローチしたことで、ホースセラピーの価値が見えやすくなり、よりヒト寄りになったということだと思います。

下薗:野暮な質問ですが、ウマを中心に起用している理由を教えてください。

川嶋:一般的に言われていることですが、ウマが嫌いなヒトが少ないということが挙げられます。イヌやネコですと、ある一定数、嫌いなヒトがいます。

下薗:イヌやネコですと、存在が近すぎることも理由にあるのでしょうか。

川嶋:そうだと思います。一つ目の特徴には、イヌやネコに嫌いな方がいらっしゃるのは、普段の生活でのイヌやネコとの触れ合いの中で様々な経験をされているためだと思います。
 二つ目には、乗ることができることです。相手を受け入れて、信頼し、身を任せなければなりません。
 三つ目には、人間とウマとの関係が、人間の世界に非常に似ていることです。相手に主導権を渡すのか、自分が主導権を持つのか、常に相手との関係を調整しています。イヌは忠誠心を持ち、関係性が確立すると比較的変化しにくいと私は思っています。しかし、ウマは、朝、自分に主導権があっても、お昼には関係が変わることもありますので、そういう意味では常に関係が変化する人間の社会に似ています。

下薗:なるほど。ウマはどうしてそのように状況が変わっていくのでしょうか。

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川嶋:ウマが草食動物であることが大きな理由になります。ウマは武器を持たない動物なので。自分の身を守るために、誰をリーダーにするかということを常に考えています。例えば、他個体をリーダーとして従おうとしていても、その役割を果たせなければ、自分が主にならないと身を守れないという生き方をしています。

下薗:そのような特徴は、ウマの群れの中に人間が入っていかなくてもわかることなのですか。
ウマとヒトが一対一の関係でわかることなのですか。

川嶋:はい、一対一のときでも分かりやすいですし、よりはっきりと出るようにと思います。

下薗:そこまでウマと関わったことがないので、知りませんでした。

川嶋:そうですね、日本はウマが少ないですから・・・

下薗:ウマという素晴らしい存在がありますから、日本の中でもっと活かしたいですね。

IAC