第8回

大切なペットと向き合うために
下薗 恵子 ×山口千津子(獣医師、(社)日本動物福祉協会)
2009年3月2日

山口千津子先生は獣医師であり、かつ(社)日本動物福祉協会の調査員としての活動もされていらっしゃいます。
今回は山口先生に日本の現状や、動物福祉と社会の関わり方のこれからについて、さまざまなお話を伺いました。

対談者プロフィール
小林 節山口千津子(やまぐち・ちづこ)
1975年3月 大阪府立大学農学部獣医学科卒業
1979-1981年 英国・カナダにおいて動物福祉に関する研修を受け、英国王立動物虐待防止協会(RSPCA)のインスペクターの資格を得る。
1981年10月 帰国後、(社)日本動物福祉協会獣医師調査員として、現在に至る。
現在、 東京都動物愛護協議会委員/仙台市動物愛護協議会委員
(社) 日本獣医師会動物愛護福祉委員会委員

海外と日本の動物愛護

松本 壯志

下薗:先生が大阪から東京に出ていらしたきっかけというのは?
山口:元々東京には就職で出てきたんですが、家の都合で一度辞めまして、そのとき動物福祉の勉強をしたくなったんですね。ただ日本では動物福祉を学べる場がない、けれど英国では勉強できると知って、英国に行っちゃったんです、えいっと。(笑)

下薗:素晴らしいですね。

山口:
でも、英国のどこで勉強できるのか分からなかったので、日本動物福祉協会の方にロンドンから手紙を書いたんです。動物福祉の勉強を英国でしたいと。そうしたら返事が来て、動物福祉協会の英国支援団体の理事長さんに会うことになり、RSPCAで勉強させてあげられるけれども、その代わり日本へ帰ってから日本動物福祉協会に勤めてくれるかと言われたのです。それに、「はい。」と答えたんですよね。RSPCAでインスペクター(動物査察官)のコースを取ることが条件だったんですけれど。

下薗:英国にはそういった学校があるのですか?

山口:はい。RSPCAという世界で一番古い動物愛護団体です。英国が世界一の動物愛護先進国だといわれるようになったのは、RSPCAの存在がすごく大きいと思うんです。動物福祉に関する全ての部門があるんですけれど、特にインスペクターの部門というのは、RSPCAの基礎なんですね。半分以上が法律の勉強で、動物福祉のほかにも獣医学の初歩など様々なことを習いました。

下薗:現在英国ではどのぐらい通報件数があるんでしょう。日本と比べてどうなんでしょうね。

山口:通報は多いですね。日本でも色んな通報が増えましたけれど、やっぱり英国の場合、一般市民の意識が日本よりは高いと思うんですよ。

下薗:通報しようという意識がですか?

山口:いえ、ペットの正しい飼い方についての意識が高いと思うんです。日本では見過ごされているようなことも改善必要と通報されます。虐待はどこの国でもあるんですけれども、虐待についての認識が日本よりもしっかりしている。ただ、日本も変わってはきました。昔は犬についての苦情といえば「鳴き声がうるさい」だったのが、今は「あの家の飼い方はひどい」というものが多い。RSPCAのケースの中には、飼い犬を太らせ過ぎたことが裁判で虐待とされたものもあります。ラブラドールを75kgまで太らせてしまったのです。

松本 壯志

下薗:でもよく言われるのが、欧米は狩猟民族で、日本は農耕民族だから、日本人の方がきちんと愛情を持って動物を飼うことができるんじゃないかと。

山口:逆に日本人は動物の心身の健康に対する責任意識が薄い気がします。愛情を持っていることと、動物種にあった精神的・肉体的・社会的健康を確保することとは別になってしまっている。安楽死には反対と言いつつも、捨てても誰かが拾ってくれるだろうと楽観視してしまう。

下薗:英国では、捨てるということはないんですか?

山口:ないことはないです。だから保護施設がある。それでも向こうの人は、ペットを捨てるとどうなるか、分かっていると思うんですよね。狩猟民族は動物との付き合いが長いので、飼う以上はきちんと飼育管理しないと、という意識は強い。日本の場合は飼育管理するという意識が薄いんだと思います。管理というより、共にいるという意識のほうが強いんじゃないかなって。

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