第18回

動物園の飼育員の素質

2014年12月1日

以前は東京都庁で環境局で環境保全等を担当するなど、現在まで自然や動物と深く関わり合ってこられた、現恩賜上野動物園園長である土居利光さんに、飼育員に必要な知識、心構えなどを伺いました。

対談者プロフィール

土居利光
土居 利光(どい・としみつ)
東京都恩賜上野動物園 園長
東京都 自然環境保護の役職を歴任した後、
多摩動物園の園長を6年半務める。
2011年8月より現職。
東京都恩賜上野動物園
東京都恩賜上野動物園について
東京都恩賜上野動物園は1882年開園の、日本で最も古い動物園。
飼育環境をできるだけ自然な状態に近づける取り組みが行われている。
日本一の入園者数を記録する動物園でもある。

自然保護の重要性

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下薗:私たちは自然の中で生かされているにも関わらず、自然を徐々に破壊してしまっている現状があります。突き進む近代化と自然保護について、動物園の園長先生というお立場からご見解をうかがえますでしょうか。

土居:人間は基本的には、自然を改変しながら生きてきた生物だと考えています。逆の表現をすると、自然を改変しなくては生きていけないのです。  例えば「あなた、これから原生林の中で暮らしなさい」と言われても、暮らすことはできないですよね。どちらかと言えば、私たち人間は文化的な面をひとつの糧にしながら、今の生命体としての集団を築いてきました。
だからと言って、動物や自然をどうにかしてもいいという理論ではありません。
文化的な側面を持っている存在だからこそ、人間本来の生命の基盤としての動物や生命、植物を含めた生態を守っていかなければなりません。

下薗:そのとおりですね、とても共感できるご意見です。

土居:人間は言語の力で文化をすべて変えてきた歴史があります。抽象的な思考によって、すべての物事を抽象化することができるため、どんなに自然を壊しても、痛みを感じない、頭の中に入ってこない脳の構造を作り上げてしまいました。
1度理性に戻り、自然を持ち直させるということが、私たちに課された課題です。
いま生きている人間だけでなく、次世代の理論も組み入れる仕組みにしていかなくてはいけません。そのためにも、自然保護は重要です。

下薗:すばらしいお話ですね。
私たちシモゾノ学園の理念もまさにそこです。自然の環境の中で人間が知恵をもったがために、多くのものを破壊してしまいましたが、自然環境を守るためにこそ、知恵をしぼるべきだと感じています。
土居先生がおっしゃるように、人間は文化の中で進化した存在ではありますが、もっと自然環境を守ることを考えながら、その知恵を発揮していかなければなりませんよね。

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土居:以前、携わっていた自然保護の施策で発見したことは、「自然が大事」という訴えについて、地元では誰も反対しないという点です。

下薗:なるほど。

土居:「共犯性の自然保護」と私が呼んでいる理論があります。
人間は、「自分にも関係があるんだ」「自分もなにかしなくてはいけないんだ」という気持ちや、そうせざるを得なくなるような仕組みを作り込んでいかなければ、なかなか動かない生き物です。そこで、「自分も共犯者だ」と思わせるような仕組みや考え方を取り入れていかなければなりません。
そこで取り入れたのが、「エコツーリズム」です。当初は「エコツーリズムをやると儲かるよ、生活の糧にできるよ」という導入でした。
現在の日本では、エコツーリズムは観光がメインですが、私が発案したものは、規制を主体にしたエコツーリズムです。「自分は関わっているんだ」と自覚を持たせるため、ガイドには「島民になって1年以上」などと決め、東京都による講習会も受講してもらいました。それによって、今まで知らなかったことを知り、ガイドをして説明をすることが誇らしいと感じてもらうような仕組みを作りました。

下薗:プライドを持って取り組めるガイドということですね。
たしかに「私は関わっている」という自覚が目覚める仕組みですね。

土居:そうなんです。自分の意識が高まったり誇りをもってもらうことで、真剣に自然を守ろうという考えをもってくれます。

下薗:なるほど!

土居:これは私の教訓で、どんな職場にも適用できます。
もちろん、動物園にも適用でき、基本的にはこの方針で取り組んでいます。

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