第13回

災害動物救助ボランティアの今

2012年9月1日

昨年の東日本大震災でも、地震・津波に加えて原発事故という未曾有の被害を受けた福島県。福島県保健福祉部 食品・動物愛護担当、専門獣医技師の平野井 浩さんは、そこで被災動物や、被災者の飼えなくなったペットの保護を行っている「福島県動物救護本部」の事務局もされていました。 平野井さんに、難しい被災ペットの問題や、動物救護の実情について、興味深いお話を伺いました。

対談者プロフィール

平野井浩
平野井浩(ひらのい・ひろし)
福島県 保健福祉部 食品生活衛生課
専門獣医技師(食品・動物担当)

震災の影響、人の影響

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下薗:昨年の大震災において、地震や津波の恐ろしさも勿論でしょうが、原発事故、放射能汚染という悲惨な現状が、福島県に集中してしまっております。その中で、動物救援に関して大変なご苦労の中、真摯な姿勢でご尽力をされ、終息はまだ光さえ見えていませんが、ここまでに至りました平野井先生のご経験談や願わしいことなどをお話いただけますでしょうか?

平野井:今回福島は原発災害という特異な災害に直面したわけですが、やはりそこが過去の阪神大震災や三宅島噴火災害の時との違いです。これまでは復興と同時に被災動物の対応も進み、平常の生活に戻るという光景が見られましたが、今回の福島については、人の生活もまだまだ元には戻れない。警戒区域の解除の見通しが立たないまま自宅に帰れない方が多いという状況が続いています。特にいわき市には、24,000人ほどの方が警戒区域から避難されており、住居の問題もままなりません。住居環境の問題から、犬猫を引き取れない方がいらっしゃいます。
飼い主とペットが1年余り離れて暮らしていることは、決して喜ばしいことではありません。そこを我々は解決しなければならないのですが、非常に難しい問題です。
最近では、ネット上で、1年間もペットを放っておいてと飼い主さんのことを悪く言う書き込みも見受けられますが、こればかりは、福島に住んでいる人間でないと実情は分からないですね。

下薗:そうですね。

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平野井:飼い主もペットと離れていることを良しとしているわけではないでしょう。一緒に暮らしたいけど、これまでの飼育環境が、室外で自由に飼われていたケースが断然多いでしょうから、仮設住宅で暮らすには勝手が違い過ぎます。クレートトレーニングや無駄吠えをしない訓練もできていない中では、ご近所への心配り等、飼い主ともども制約があり過ぎて、ペットとの同居に踏み込めない飼い主さんも多いと思います。
でもこれを収束させるために、われわれ行政としては厳しい言い方をしなければならないこともあります。そういう辛い部分も多いんです。
また、今回はネットでの拡散というものが、我々を非常に戸惑わせました。SNSなどで現地を見ずして誹謗中傷する人が多かったですね。被災者である飼い主さんのことや、シェルターでの動物の管理のこともそうです。実際来ていただいて実情を知っていただくと、それが本当に誹謗中傷であると分かってもらえるんですが…。

下薗:そうなりますと、もう三次被害ですね。

平野井:そうですね。ネットで知らない人が、あたかも現地を見たかのように色んなところで書き込む。それに賛同した多くの方の非難の声が行政や福島県動物救護本部に来る。その対応に時間を取られてしまって、本来業務である動物救護ができなかったということもありますね。

下薗:あってはならない悲惨なことですね。世論として起こりえる風潮かもしれませんし、とても残念なことですね。ご苦労の数々でしたでしょうがその経験を無駄にせず、今後の万一の時に備えて行かなければと思っています。その勉強のために今回現地に来させていただくことにいたしましたが、本当に現地を訪れてみないと全然予想がつかないことばかりです。

IAC