第1回

これからの獣医学臨床教育のために
下薗 恵子 × 山根 義久(日本動物高度医療センター院長兼科長/日本獣医師会会長)
2007年12月28日

臨床医を経て大学教授就任、日本獣医師会会長就任と、日本の臨床獣医学の現場に身を置き続け た山根義久先生。今の日本の獣医学界が抱える問題から見えてくる、本当に必要な教育とは? 山根先生が院長を務める日本動物高度医療センターについてを中心に、興味深いお話を伺いました。
対談者プロフィール
山根 義久 山根 義久(やまね よしひさ)
1943年生まれ。68年鳥取大学農学部獣医学科卒業。岡山県農業共済組合連合会 家畜診療所勤務、山根動物病院院長、鳥取県動物臨床医学研究所理事長兼所長 などを経て94年から東京農工大学農学部教授。05年日本獣医師会会長に就任。 06年にオープンした日本動物高度医療センターで院長兼科長を務める。医学博士、 獣医学博士。

日本動物高度医療センターについて

山根先生 下薗:まず、山根先生が代表を務める日本動物高度医療センター(動物の高度医療を中心に、教育、研究を実践する施設)についてお話を伺います。施設を拝見させていただき、そのすばらしさに感動しました。もちろん動物看護師にそういった場を与えていただけることもありますが、自分が犬を飼うという立場で考えまして、犬にとって幸せな環境ができたことが一番うれしく思います。まずは設立の経緯などから教えていただけますか。

山根:獣医師というのは、国からライセンスを与えられて仕事をしているのであり、ライセンスは自分の物ではなく、その証拠に他人には譲ることができません。専門技術と知識があるから「普通の人にはできない仕事ができる」という資格を与えられている訳です。
臨床獣医師として、昨今の動物医療を見ていると、様々な苦情が聞こえてきます。それはやはり我々が専門職能団体として充分な義務を果たしていないからではないかという気がするのです。それは大学にいた10余年前から、今の動物医療の臨床に対する教育体制を見ていつも疑問に思っていたことでした。大学に留まって努力すれば、いつかは自分たちの目標とする方向が打ち出せるのではないかと思ったのです。

しかし、なかなか思うような方向性には持っていけない。それでやむなく大学でできないならばと思い、決断したわけです。幸い、ここ川崎市も川崎市獣医会も歓迎でしたし、大学にも、比較的都内からも近いですから。

新しい施設の立ち上げには当然それだけの理念が必要です。緊急の課題としてまずは「教育(Education)」。すなわちスタッフの養成をしなければならない。

もう一つが、日本で遅れている臨床研究(Research)です。我々は多くを欧米の模倣をやっているんですね。けれども全国を見回してみますと、個々にすごい仕事をしている先生がいる訳です。これを社会に還元していくことで、奉仕できるのではないかと。

ですから教育と研究をメインにして立ち上げたのですが、昔のようにメスを持てない外科のスタッフを育てても意味がない。そのためにはやはり臨床(Service)の現場を持つ必要性があるということで、「Education」、「Research」、「Service」の3つを柱とした医療サービスのモデルを作りました。ところが「Service」の柱となる医療というのは、一次診療施設(開業医)と競合しては意味がないのですね。ですから、一次診療施設と連緊を取る効果的な特殊なスタイルの2次診療動物医療センターという名目を思いついたんです。

下薗:こちらのセンターには私の愛犬の治療もお願いしているのですが、外見では分からなかった、例えば鼻の骨が曲がっているなんていう(笑)、考えてもみなかったことを見つけてくださって。緻密で正確な診断と的確な治療をしてくださるというのは、とても有り難く、そして心強いです。

  次のページへ→
IAC