よりよい獣医療環境を作るために

松本壯志

下薗:現在先生が会長をされている、動物看護職協会のお話をいただいてもいいでしょうか。素晴らしい会ができたことを喜ばしく思いますし、動物看護職というのは私どもの卒業生たちの行く道ですから。

森:設立総会のときも看護職の皆さんが元気で、はつらつとしておられ、そういうのを見ていると、協会の目的に向かってうまくいってほしい、ぜひそうしなければ、という風に思いますよ。日本獣医師会をはじめ多くの関連団体が、一生懸命になって応援してくれている。関わる人達の気持ちが純粋で、自分が得する儲かる、みたいな考えがまったくなく、ただ動物看護職の将来のために頑張ろうという気概が伝わってきます。協会はいいタイミングで設立されたという気がします。

松本壯志下薗:物事が動くときってそういう時ですよね。この動物看護職の資格の統一化、公的資格化、教育カリキュラムの平準化や職域の整備などの問題も以前から騒がれていつつ、なかなかうまく前進しづらかったですね。けれど日本獣医師会山根会長をはじめ、諸先生方のご支援もあって、周りの関心も高まっていますし、動物看護職の方々も経験豊富な人材が増えているし、環境が整ってきている時期が到来したかと思います。
今は動物を取り上げるテレビ番組も多いし、飼い主さんの意識が非常に高いから、動物看護職の職域や地位がしっかりすると動物医療の環境もよくなるし、それはそのまま動物達のためになることなので、皆で声を出しあい手を取りあっていきたいですね。

森:そうですね。さらに、もう一方にはひとつには獣医師が勤務医で一生をきちんと過ごしていけるような獣医療システムができるといいと思います。獣医師一人一人の独立志向が強いままでは、組織としてよくなりません。人の医療界と同じように、勤務医としての獣医師というあり方が確立されれば、チーム医療の発展が促進され、あわせて動物看護職他の専門職についても重要性が認識される。
同時に進めるべきなのが、各地にしっかりした二次診療病院を作って、そこに専門医と臨床部長(大学の教授に相当)のようなポストを配置すること。するとそこには必ず動物看護職を始めとした高い専門性を持つサポートスタッフが必要なので、彼らの居場所、職域が形成できる。そうした基盤整備をすることで初めて、お互いの待遇改善が図れるんじゃないでしょうか。

松本壯志下薗:では最後に、若者達に伝えたいことをお願いします。

森:うーん、携帯やネットのまん延に対して、このままではまずいなと思っています。十何万年という現代人類の歴史上、携帯やネットなどというコミュニケーション手段はごく最近ここ10数年で広がったものです。その利便性にどっぷりと浸かっている現在は(僕自身も含めてですが)、人類の歴史からするととんでもない異常事態で、人間の心も体も、実はそれに十分には適応できていないんです。我々が、どうしてペットと触れ合っていると安心するかというと、人間は大昔から、自然の中で暮らしてきたからなんですね。森を散策するとほっとするのもやっぱりそうで、人間として自然とうまく関わり合い、環境に連動しながら生きてきた様々な経験が、いわば遺伝子に刻み込まれているわけです。携帯電話を通してしかコミュニケーションできないような、現在の我々が当たり前だと思っている現状を、実は不自然であると知ってほしい。そして本来の心の喜びや安心を、なにが自分にとっていちばん幸せで大切なことかを、動物と触れ合うことをきっかけに思い出し、まず原点に返る。そのように自分の生き方を探求する一つの方法として、動物との関わりが役立ってくれると、私たちとしては嬉しいですね。

下薗:そうですね。せっかく動物の近くにいる私たちですから、動物からする本来の生き物の力に気づき、原点に立ち戻る!!ことも提唱していけるような役割を果たせたら素敵ですね。いいところに気が付かせていただきました。ありがとうございました。

最後に

最後に

日本の動物行動学の先駆けでいらっしゃる森先生のお話は、実際の動物医療現場だけでなく、そこに関わる私たちすべての人にも重要なことを気づかせてくださいました。これからの動物医療がよりよい方向に進展するよう、私たちも尽力したいと思います。


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