学校法人シモゾノ学園の理事長兼校長。動物が生きる喜びをかみしめることができる社会、人と動物が本当の意味で共存共栄できる社会を目指す愛犬家。
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第23回川嶋 舟氏
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第22回吉田 太郎氏
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第21回動物看護業界座談会
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第20回第19回柴内 裕子氏第18回有馬 もと氏第17回土居 利光氏第16回動物看護師統一認定試験についての座談会第15回小倉淳氏第14回山田かおり氏・金井寛貴氏第13回平野井浩氏第12回災害動物救援ボランティア座談会第11回小森伸昭社長第10回増井光子先生第9回森裕司教授第8回山口千津子先生第7回松本壯志先生第6回西川文二先生第5回小林節先生第4回中嶋宏一社長第3回瓜生敏一社長第2回動物看護師の国家資格化に向けての座談会第1回山根義久先生
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番外編
下薗:ご縁の深さを感じますが、本学園は柴内先生に師事をした山下先生をお迎えしています。我々が山下先生から学ぶ端々に、柴内先生から伝授された大切な考え方を観ることができます。
山下:日大を卒業後、すぐに柴内先生のところでお世話になりましたので、40年にもなります。教えていただいたことは、もう母より多いのではないかとも思うくらいです。まず女性として教えていただいたこと、獣医師として教えていただいたこと2つあるかと思います。
柴内:なんにも覚えていないのですが(笑)。
山下:自分でも娘をひとり育てましたが、無事に子どもを育てなければ、仕事をしている価値がないという教えはいつも聞き、実行しなければと思いながら働いていました。獣医師としては、まず大学で学んだことのギャップを感じていました。当時は産業動物のことしか学んできませんでしたから、小動物に対する技術はほとんど持たずに就職したわけなのです。犬をブラッシングすることすら知りませんでしたし、混合ワクチンがあることすら知らず、フィラリアの予防も毎日錠剤を食べさせることが始まった時代でしたので、今とはまったくちがうことから始めたわけですが、技術的な部分はもちろんですが、お帰りになる方に対してのドアの開け閉めやカーテンを閉めるタイミング、お釣りの出し方といったことを一から教えていただきました。丁稚奉公のようなかたちで、本当にありがたいことです。そのような教えを通し当時感じたことは、女性が獣医師として働いていくためには、気遣いが必要だと痛感しました。
柴内:男性と違う部分もありますからね。
山下:あとは、女性獣医師が社会のお邪魔にならないように働くためには、男性の飼い主さんがいらっしゃった際の接し方も大切だと習いました。当時は女性が働くことは特別な目で見られる時代でもありましたので、職業婦人のように。そのような背景もあって、ご家族で病院にいらっしゃったときには男性に対する接し方に気を使わなければならない時代でしたので、そのようなテクニックも教えていただきました。そのようなことで、女性が世の中にこびずに認めて働けるというように導いていただきました。
下薗:柴内先生も山下先生も信念をお持ちの方々ですから、おっしゃることは、とてもはっきりときっちりと伝えていくことは、私も魅力を感じています。
山下:獣医療以外のことも教えていただきました。「女性はちゃっかりうっかりがいちばんいいのよ」とも教えてもらい、結婚をしてからも、柴内先生ご夫妻のご様子を拝見しながら様々なことを習っていきました。
下薗:柴内先生は、動物のことを「お子さん」と呼んでいらっしゃいますが、その価値観を山下先生は受け継いでいらっしゃって、シモゾノ学園もそちらに舵を切り、今まではどうしても職業が優先という考えになりがちでありましたが、動物のこと、飼い主さんのことを心に置きましょうという視点を教育の中にも入れていっています。
山下:柴内先生のバランス感覚はお手本です。最近の動物好きの方々の中には、動物至上主義で、すべて動物が一番ということになってしまうこともあるかと思います。以前、私が無理を言って宿直をさせてくださいと言ったときに、先生がおっしゃった言葉が忘れられません。もし火事などがあったときに、入院している動物たちを助けてはほしいのだけれど、でもあなたの命が一番なのよ、まず自分が逃げることを考えなさいと言ってくださいました。動物の命は大事だけれども、やはり人の命を一番に考えなさいと教えてくださったんです。
柴内:それは大事なことです。
山下:だからそのようなバランス感覚は、いつも学生にも伝えています。それがないと、犬が一番という人も出てきてしまいます。
下薗:多かったんです、私どもの学校でも。いいことでもありますが、少し違うのです。
山下:美談になるのかもしれませんが、そうではありません。柴内先生がおっしゃったように、人が幸せになって初めて動物を幸せにできるのですから。
柴内:そうですね。
山下:お別れするときも、本当に悲しいのだけれども、悲しいから次の子を迎えたくないのではなくて、地球からの預かりものをお返ししたという考え方なので、それを認識してもらえるように飼い主さんに導いていけることが大事だと教えていただきました。
柴内:代わりの子がいないと、なかなか復帰できなかったりします。迎えやすい環境を作ってあげることがよいかと思います。飼い主さんが、新しい子を迎えることができる経済力や年齢に余裕がある方であれば、また経験が多い方であれば、前の子への恩返しに、もう一つ命を預かってくださいとお願いをしているんです。どなたが面倒をみるよりも、あなたが面倒をみれば、幸せにしてあげられるでしょう、と。チャンスを作ってあげます。
下薗:なかなか踏み出せない方もいるかと思います。後押しをしてあげることも大切ですよね。
柴内:その方のわがままや、ただ新しい子がほしいという感覚で選んだのではなく、周りがお願いしたということが自然にわかれば、迎えやすいですね。不幸な子がそばにいたりすれば、この子を幸せにしてくださいと迎えやすくなりますね。そのような方向で力づけてあげられるかと。
山下:仕事に対する姿勢としては、健康でなければやっていけないということを実感していますので、まずそこが自分自身のこととして考えます。あとは忙しいからできない、時間がないという言葉は意識して使わないようにしていこうと思っています。
柴内:どちらにしても自分で選んだ道ですから、時間がないというような言葉では何も解決できないですからね。
山下:おかげさまで、学園の仕事をたくさん担わせていただいています。自分一人では切り開けない分野にもなっていますから。
下薗:学園が新しい物事に歩みだせるのは、山下先生がいてくれるからです。動物看護師の動きが活発になっていて、教育を固めなくてはならないときに、やれることにどんどん手を出せるのは、山下先生がぜんぶ整えてくださってるからなんです。その意味でも、柴内先生の教えやお力は、シモゾノ学園でもしっかりと受け継がせていただいています。 本当に本日はありがとうございました。これからも、どうぞよろしくお願いいたします。
柴内:こちらこそ、ありがとうございました。