同行避難ができてこその家族

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柴内:40年も以前は殺処分頭数が年間160万頭でしたが今は12万頭、やっと10分の1以下になりました。

下薗:役所関係も殺処分をしないことが一つの誇りになってきましたね。

柴内:環境省からもお達しがありましたからね。昔は犬がいたら捕まえてきて保健所に入れなさいとしか言っていませんでした。

下薗:もっともっと成功している海外に倣っていきたいですね。

下薗:今日も柴内先生にお目にかかったときに、「忙しくて」とおっしゃっていましたが、どのようなことに活躍の場を広げていかれるご予定なんでしょうか。

柴内:最近海外で発見したことですが、アメリカの国内線搭乗のためのボディチェックをするときに、外見はなんともない方が小型犬を抱いていたり、少し大きめの犬をごく自然に抱いて通過されるのを見ました。

下薗:どういういきさつなんですか?

柴内:健康そうに見える方ですから、介助犬でも盲導犬でもなく、私もなんでだろうと思って尋ねましたら「あの方には、セラピーとしてあの犬が必要だ」という回答でした。ようやく合点がいき、またセラピー犬としてのマークなど何もしていなかったことで、日本との比較で大きな問題に気づきました。日本は補助犬法が先にできました。私も法律の制定に少しかかわったので反省していますが、アメリカは障害者法が先にできました。ですが、障がい者が「自分にはこれが必要です」と言えば、NOがありません。これは障がい者に対する保障が違うことを意味しているのです。

下薗:なるほど。社会基盤がまったくちがうのですね。

柴内:もしセラピー犬が飛行機の中でトラブルを起こしたとしたら、やはり問題になるでしょうが、アメリカは犬に対する教育がいきわたっているから問題にならないのでしょう。それだけ、動物との歴史が長く、しつけが市民一般の常識として持っている国なんですね。

下薗:動物との幸せな共生を目指す根底には、マナーがきちんとできていないと、やはり迷惑になってしまいます。日本はなかなか追いついていない部分ですね。

柴内:私は同行避難ができなければ、家族とは言えないと思います。でも、犬を呼んだらすぐに来る、それができなければ連れていけません。同行避難ができるようにしつけをする。キャリーに入る、リードをつけられる、一緒に走ることができる、避難所では段ボールの向こう側でおとなしくしていられる、キャリーにおとなしく入っていられる。排泄をどこでもむやみにしないというトレーニングをする。避難所に行ったら、犬は外につないでくださいなんてこともあり、津波にのまれたという悲劇もありました。仙台市では全国で最初の同行避難を条例で入れると言っています。それくらいしないといけませんね。安全なビルの中で犬や猫を入れてくれるということを日本でも実現しなければいけません。

下薗:まさに今、お話を聞いているこの部屋も、しつけ訓練の部屋なんですよね。

柴内:はい。ですから、そのような施設は開放して、可能な限り同行避難のお手伝いをしています。行政が住民の避難所として指定した場所に動物が一緒に入れなければ、動物がいるために車で野宿する方が出たりと、さまざまなリスクがありますから。

下薗:そこには飼い主さんのモラルや見識を高めていかなければいけませんね。そのような場で、シモゾノ学園の学生も活躍してほしいと思います。

柴内:活躍してほしいですね。もし同行避難を条例化するのであれば、そのときは行政でしつけ教室を開催して、これを受講した方はシールなどで同行避難することができますよという印をつければよいのです。そのような動きも病院としては支援していこうと思っています。しつけの先生や施設を無料で貸して、最寄りの飼い主さんと犬が来て勉強していただく。このようなシステムにすれば、いざというときに同行避難できることになる。啓発にもなります。

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下薗:目標になりますね。大宮国際動物専門学校では、さいたま市の動物愛護推進協議会の委員を仰せつかっていますが、そこでも同行避難という単語は出ますが、なかなか前へ進まないことが歯がゆく感じていました。今の案をお借りできればと思います。

柴内:カナダのある地域では、犬を飼い始めた方は6週間、毎日曜日の朝、公園のしつけ教室に参加することになっています。しつけの費用のうち6ドルは行政が払い、インストラクターはボランティア、飼い主はあと3ドルを払うというシステムを知りました。いい方法、市民が育つ方法だと思いました。基本だけでも教えられる場だと思います。

下薗:ドッグトレーナーの活躍の場も広げられますよね。修了したらバッジか何かを首輪につけておけば、修了の証になっていざというときに受け入れてもらえるようになりますね。マイクロチップも活用できるかもしれません。

柴内:高齢者施設に動物が同居することができれば、必ず動物看護師の需要も増えます。目指すことはたくさんあります。

下薗:これからの社会に向けて、獣医師さんとしてたくさんのご経験をお持ちの先生からのなにかメッセージをいただけますか。

柴内:地球の人口は71億人になり、地球の限りある資源をむしばみ続けています。この71億人がまだまだ増え、2050年には平均気温も今よりも4.5度くらいあがるという恐ろしいことも推測されています。異常気象、豪雨や竜巻、干ばつ山火事、自然災害の地震や津波もあり、地球上に住んでいて、これだけの人類が自然環境を破壊し、確実に温暖化を起こしているわけです。今の学生さんたちは、少なくとも60年くらい生きることになるわけで、その先を考えなければなりません。今の若い方たちが、気づかないか、何をしていいかわからないという大変な地球になりますので、私は気づきをお願いして歩いています。今日から節水してください、油ものは拭いて捨ててください。レストランのナプキンが紙なら持ち帰ってください。お風呂のお湯を5センチ下げてください。1日にあなたが20リットル節水すれば、大きな力になります。水をきれいに戻すにはゴミを焼くよりも何倍ものエネルギーを使います。誰かが心がけてくれることで、先送りができるかもしれません。やはり、自分だけの地球ではないということに、若い方々にも気づいてほしいのです。ですから、家庭教育の中にも、そのようなことへの関心を持たなければいけないなということが、今の私の一番の願いです。動物を介在した活動の中で、ボランティアさんもこのことに携わり始めたところです。

下薗:聞くのと聞かないのでは、まったく意識がちがうものです。歯磨きのときに水を出しっぱなしにしないなど、聞いて初めて小さな行動に移せたものです。

柴内:自分くらい、今日くらいと思ってしまうものでもありますが、今のように地球上の変化が進んでいくと無関心ではいられないことだと思います。みなさんが動物を愛したいと思っても、一番の愛情は、自分が幸せでないと相手を幸せにできません。だから、人類が健全に生活できなければ、動物も植物も幸せには絶対にできませんね。それができて初めて、動物たちに心を向けてあげられるのです。自分が生きていけなければ、動物どころではないわけですからね。その意味で、一人一人の責任ある行動がとても大事な時代になってきています。

下薗:あらためて、動物の職業に向かう方々へのメッセージをお願いいたします。

柴内:「よくぞ、動物の世界を選んでくださった」とお伝えしたいです。それほど価値のある仕事です。ご本人が幸せであると思える社会にしなければなりません。でも、だれも他人はしてくれません。だから、自分が選んだ職業を、自分でよい環境にしていかなければならないので、ひとりひとりの心の置き所が重要です。時間は簡単に過ぎて行ってしまいます。動物にかかわる仕事を目指した方々は自分だけではなく、もう一つの命を幸せにする役割を担うわけですから、その意味でとても大切な仕事だと思い、誇りを感じてほしいです。

下薗:ありがとうございます。必ず伝えさせていただきます。

IAC