第11回

動物行動学が変えるこれからの動物医療
下薗 恵子 ×小森伸昭社長(アニコム損害保険株式会社 代表取締役社長)
2011年6月1日

日本で初めてのペット保険専門の保険会社、アニコム損害保険株式会社を経営されている小森伸昭社長に、保険業という金融業界からの観点から見た日本の獣医学の現状や、日本社会のこれからについて、興味深いお話を伺いました。

対談者プロフィール
小森伸昭 小森伸昭(こもり・のぶあき)
アニコム損害保険株式会社 代表取締役社長。京都大学経済学部卒業。
東京海上火災保険株式会社(当時)退職後、アニコムクラブおよび、株式会社ビーエスピー(現アニコム ホールディングス株式会社)を設立、現在に至る。

保険業は安心創造産業を実現できるんだ

小森伸昭社長

下薗:動物の医療費は積み重なれば非常に大きな負担になる。昔から保険があればと思っていましたが、必ず、「動物医療に保険は難しいだろう」、で終わってしまっていました。そこを乗り越えて、ここまで動物医療保険を発展させたご経歴から、お話をうかがえますか。

小森:もともとペット保険に特化してビジネスを始めようと思ったわけではないんですよね。転機は今から15年位前、私自身保険会社に勤めていた頃のことです。「保険業とは世界中の不安を取り除いて、安心を提供する仕事」だと教えられました。初めは鵜呑みにしていたんですけど、途中で経済企画庁への出向があり、そこで社会保障制度等の分析をしていて気付いたのは、保険が普及している国ほど、実は、事故が多いのではないかということです。

下薗:必要だから保険が普及するということですか。

小森:初めはそうだったはずが、そのうち保険が人々のモラルを低下させるようになったんです。

小森伸昭社長

下薗:保険があるから大丈夫だと。

小森:実際に自動車事故のほとんどは、未必の故意だと言われています。駄目だと分かりながらスピードを出す。でも、その人々のモラルの低下は、事故が起きても保険に入っているから大丈夫という思いから発生しているとも言える。それを保険会社で働く者として恥ずかしく思い始めるわけですよ。それで一時働くことへの意欲を失ったんです。

下薗:それはおいくつぐらいの時だったんですか。

小森:25~27歳頃です。その後、保険業界の役割について考えるようになりました。今までの保険会社の役割は保険金の支払いのみでしたが、本来の役割は社会的なリスクを減らすことなのではないか。例えば、自動車保険を例にとると、自動車事故がどの道路のどの交差点でよく起こるかということが分かっています。ならばそこの交差点を立体交差にして、そもそも事故をなくしてしまえと。そうして保険会社は事故を根源から予防するのです。

下薗:そちらに手が打てるんですね。

小森:こんな保険会社を作るためであれば命を賭けることができるかもしれないと思いました。日本から保険業界が変わったと言われると、保険業界に身を置いている者としてありがたいなと感じます。しかし、元々勤めていた保険会社は、従業員1万人以上の大企業ですから、二十何歳の若造が何を言っても変わらないわけですよね。

下薗:まあ、そうですね。

小森:会社の中でその夢を成就する道もあったんですが、血気盛んな部分もありました。その頃、偶然に阪神大震災を体験しまして、「どうせ死ぬ時には死ぬんだ」という思いが湧いてきました。「もっと自信持って生きんかい」という気持ちになったのです。

下薗:人生観も変わられたんですね。

小森:「明日は何が起きるかわからない。そうであればやりたいことに挑戦しよう。新しい保険会社を作ろう」と考えました。ただ、近年の日本で大資本をバックに持たない保険会社の新設というのは全くないんですよね。そこで獣医師の弟が、ペット保険から始めるのはどうかと提案してくれました。ペット保険について調べてみると、欧米では割と普及している国があるけれど日本ではまだまだだったんです。でもペットと家族のように暮らしている日本の飼い主さんの感情や経済力を考えたらペット保険はこれから普及するに違いないと確信したのです。

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