「訓練」と「しつけ」との違いについて

下薗:本日西川先生にお声をかけさせていただいた大きな目的は、犬の「訓練」と「しつけ」との違い、そのあたりをお聞きしたいと思いまして。 なぜ、お聞きしたいかというと、私は、家族として生活する犬たちが、社会性を身につけるための「しつけ」の大切さを感じています。犬が安全に生きるための習慣、そして、一方で犬の嫌いな方々との共生にも大きく必要と思っています。

西川:まず訓練から考えてみましょうか? たとえば訓練という言葉のつくものは、人間でいうと、職業訓練とか避難訓練とか。

下薗惠子下薗:強要したり、義務であったり、意を徹して臨むというイメージでしょうか。

西川:避難訓練はまあ、ちょっと置いておいて、職業訓練というのは、ある一定の作業効力を高めたり、安全性を高めて対応していくということですね。そのための訓練ってやっぱり必要ですから。何らかの作業させる犬達に関しては、それはある意味訓練という言葉が出てくる。しかも仕事をするわけですから、こちらがたとえば、仕事上の上司とすれば、彼らには動いてくれないと困るわけです。そういった意味では、服従、服務規程違反はだめだというね。作業犬の場合はある程度当たり前なんです。警察犬は服従訓練をしなくちゃいけないと思いますね。

下薗:そうですね。

西川:でも、家庭犬におけるしつけは違う。訓練というのはその過程で淘汰される犬も必ずでてくるわけですが、家庭犬の場合は「向いていないから」ではすまされませんから。 要はその過程で攻撃性を見せたり、変な犬になってしまっては困るわけで…そのリスクの一番少ない方法を選ばなければいけないというのが私の考えです。

下薗:そうですね、そうなるとよく言われていることですが、犬ではなく、飼い主さんが学ばなければならないというか…。

西川:そう、飼い主さんの意識を変えることですね。そこでリスクの一番少ない方法はなにかというと、犬を抑圧しないことです。犬にとっては人間の家庭に入るだけでもストレスなわけですよ。 でも多くの指南書には問題を起こした場合には「叱れ!」と書いてある。でも人間の言葉がわからない犬たちは、何故恐い目にあっているかわからない。「人間が攻撃している、嫌なことをする」としか理解できない場合もあるのです。

下薗:ほんとうに…そうですね。たとえば「マテ」って言葉がありますが、私はあまり好きではありません。やはり人間の品格が犬に伝わるような…そんな接し方が理想だと思います。

サナギ

西川:僕はね、犬には社会性を学んでもらうことが一番だと思います。社会性とはなにかというと、「人間はやさしいよ、怖くないよ、楽しいよ」と不安を取り除いてあげること。 それからトレーニングというのはね、約束事をできるだけ多く教えてあげること。犬にとってはなにをすればいいのかわからないというという状態が一番不安だからね。

知り合いの獣医さんも、「触らせてくれる犬が一番幸せになれる」といっています。「マテ」ができても、触らせてくれないとケアもできないし、治療もできないので、犬として幸せになれないよと。 だから、飼い主が変わらなければいけないんですよ。犬は環境適用能力が高いので、人間が変われば必ず変わるんです。

下薗:今の先生のお話が、犬に関わる人の最低限の常識になって欲しいと心から願いますね。



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