「世界の保険業を変革したいな」

小森伸昭社長

下薗:御社が業界に参入したことで、動物医療の現場の声に変化はありましたか。

小森:我々が参入する前の動物病院は、診療費がよく分からないという現実がありました。でも保険制度を導入するにあたっての働きかけで、病院向けのカルテ管理システムなどを普及させることによって、明細書の発行や、事前に医療費の体系を告知する病院が急激に増えたように思いますね。

下薗:やはり今消費者が選ぶ時代になってきていますからね。私どもは顧客の立場にもなりますし、また動物看護師を雇用していただくという立場でもあるので、環境が改善されればと思いますね。

小森:診療の全ての料金体系や賃金の労働分配について、院長のみが一手に握っている状態だと、恣意が働いてしまう可能性もあります。獣医師は基本的には診察だけに集中して、もっと看護師に医療業務の権限委譲をすべきだと思います。また獣医師の監督の下に、看護師さんの技能を磨いてほしい。すると看護師さんも手に職がつきますし、意識も高まります。それによって実際の賃金も上がります。何よりも病院がオープンになるんですよね。

下薗:はい。そうですね。診察が中心になるので、獣医さんには動物看護自体がまだまだ理解されていない。人間の看護とは違う視点があるのではないかと私は思っているんですね。お客様側からの声としてそういったことがアニコムさんに届くことはないですか。

小森:今の話を聞いておっしゃる通りだなと思いました。ただ、動物医療の中で動物看護だけに注目するという考え方は、まだ多くの飼い主さんは持っていないので、ニーズが浮き彫りになっていないんだと思います。

下薗:「飼い主さんが『動物看護』に対する意識を持っていない」というところは確かだと思います。動物看護師の養成は全てが獣医さんからの教育なんですね。看護という視点での教育は難しいでしょうが、獣医と看護師との分業というかたちで、この先の動物医療・看護が進んでほしいと。でもそういうニーズがまだまだ社会にはないということは……。

小森伸昭社長

小森:いえ、あるんだと思います。でも飼い主さんの中に動物看護という概念が、まだ独立して存在してないだけだと思います。

下薗:そうですね。それを提起していきたいと思いつつも、どうしたら2年間の専門学校教育で達成していけるかと責任を感じます。でも小森社長は社会の違和感に気付かれて、今大きく方向転換をされています。今後どのように日本が変わっていくと思われますか。

小森:今回の地震でも実感しましたが、我々は自然界の大きな変化を恐れるあまり、人間社会を作って、より豊かさを求めて安定化させて常識を作るじゃないですか。しかし安定化した時代が長いとそれ自身に慣れてしまいますよね。変化を求めない。でも実は金持ちだろうが貧乏人だろうがチャンスがあって、自分の努力と勇気と気合いと根性で全ては変えられるのです。

下薗:先ほどおっしゃっていた「予防」も含め、その医療、動物の健康というものを守っていくという、保険業ならではの目標の達成には着々と近づいていらっしゃいますか。

小森:そうですね。明らかに一歩一歩進んでいる実感はあるんじゃないかと思います。ただ、やっぱり「世界の保険業を変革したい」と思っているので、一足飛びに結果を手にすることはできないんですけど。

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