ペットとひととの距離

松本壯志

下薗:飼育管理するというのは、すごくいい言い方ですね。

山口:管理と言うと、悪いイメージで捉える方もいらっしゃるんですけど、必要なのは、その動物本来の生態を守って、心身の健康をちゃんと確保するという意味での管理なんですよね。それが日本の場合は、一緒にいる、というだけで管理しているつもりになってしまう。管理しないことは放置につながるんです。

下薗:そうですね。あと所有物という認識の場合も。各々思い入れはあるのでしょうけど。

山口:動物の福祉は、もともと動物が心身共に健康で、幸せで、その環境に適応しているということなんですよね。世界的にその基本とされているのが『5つの自由』です。例えば今はペットをマンションで飼う方も多いでしょう。運動が必要な犬種なのに、部屋で放し飼いにしているからと充分に運動させていなかったせいで、ストレスが溜まり皮膚病になるケースもあります。後はあまりにストレスがたまると、自傷行為が出てしまう子もいますね。

松本壯志

下薗:動物を大切にとは簡単に言えますが、だからといって私は具体的に正しい飼い方を説明するのが難しかったんです。でも先生に教えて頂いた福祉の精神での考え方に一つずつ沿っていけば、動物にとって間違えた環境にはならないなって思います。

山口:『5つの自由』では、まずその動物に合った食べ物とお水ですよね。それから、動物を不快な環境にさらさない。次に病気やけがの予防も大切。万が一かかったときは最良の獣医療を与える。それから、その動物の持つ習性にあった自然な生活環境を作ること。犬ならば平面的、猫ならば立体的に運動のできる空間が必要です。動物にも感受性がありますから、恐怖や多大なストレスを与えないこと。ペットが本当に心身とも健康な状態にあって初めて、可愛がることに意味があるんですよね。人間の勝手で可愛がりすぎることは、その子のためにならないですから。

下薗:私もそう思いました。相手の動物は言葉を発しないけれど、やはり心で通じ合っているし、その子に対し潤っていて欲しいと思う。それが福祉の精神だと、すごく腑に落ちました。

山口:また、人間社会で『5つの自由』を満たした適切な管理ができるはずのない野生動物は、人間社会に引き入れてはなりません。引き入れてしまえば個々の動物のみならず、その種をも不幸にしてしまいます。

下薗:なるほど、そうなのですね。

山口:相手の立場に立って考えることですね。相手が人間であれ、動物であれ、福祉は同じだと思うんです。それができれば、人間社会はぎすぎすしないで、虐待される子は減る。動物も幸せだし、人間も幸せです。

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