下薗恵子下薗:すばらしい哲学ですね。私自身、ペットを一般の商品としてしか扱えない考え方には強い抵抗を感じますもの。行政はこうした流れに対し、どんな対策を講じているのでしょうか。

瓜生:ペットショップなど動物を扱う業者を登録制とし、悪質な業者に業務停止命令を出せるようにした改正動物愛護管理法が05年に成立したのですが、同法の起因となったのは、生体の市場「ペット市」の存在です。日本の「ペット市」の存在に対しては、世界中の動物愛護団体が批判的なスタンスをとっていますから、こうした動きが愛護法の成立や改正に繋がっている。現在の生体の市は、獣医師が立ち会って病気をチェックしているということですが、血統を追えないので遺伝上の疾患は調べようがありません。本来、ブリーダーであれば、何代前の遺伝傾向であるかまで正確に調べ、悪い遺伝を残さないようなチェックもしながら交配を考えていくでしょう。

下薗:ええ、ペットを扱う以上は、人間にしか出来ない『責任』を意識することと、ブリーディングにも哲学やテーマが求められるという気がいたしますね。

瓜生:同感です。テーマという意味では、ブリーディングというのはより良いペットをつくるという最大テーマがあるわけです。それを質の高いブリーダーはみな自覚しているはずなのですよね。ですから、どこで売買するにせよ、我々は〝繁殖屋〟に堕してはならないということ。しかし、残念ながら、商品として売れてお金が入ればいいという考え方の事業者が多いのが実情です。

下薗:たしかにそれは実感します。そうした中で、御社はブリーディングにおいてどんな取り組みをされていらっしゃいますか。

瓜生:5歳超の犬はブリーディングを控えるというような健康面での配慮は当然ですし、仔犬のブリーディングは生まれる前から始まっています。例えば、餌は仔犬が体内にいる時の母親が食べる餌から、産まれた後の仔犬の餌に至るまで全てを把握、管理する必要がある。それらを全てカルテのようにデータ化するのです。仔犬がどこへ渡っても誰もがデータを理解できる形に情報をオープンにすれば、飼うお客様は安心も同時に得ることができるでしょう。いい繁殖の仕方、育て方、飼い主へのバトンタッチの仕方を、これからのペットショップは特に考えていかなくてはならないと考えています。

下薗:しかしそうした一つ一つの高度な取り組みは、当然ながらコストとして蓄積されますでしょう。

瓜生:それは承知しています。ただ私たちは、極端な言い方をすれば、「売る」ということを大きな目的だと考えていないですから。これは他社もそうすべきだと言っているのではありません。(笑)あくまで我が社の話です。犬や猫を飼っているペット愛好者のサロンのような場を、当社が提供できればいいというのが究極の考えなのです。お客様が楽しむ場であってくれればいい。こういう考え方の根底には、『ペットのいるハッピーライフをお手伝い』という企業理念があるわけです。

下薗:お店というよりは楽しむ場ということなんでしょうね。素晴らしいですね。壮大な夢を感じます。

瓜生:まさに夢なんですよ。夢をお客様に与えることがお店の役割だと、私たちは考えているんですね。夢の内容はお店により違っていい。当社は比較的面積が大きい店舗が多いので、スペースを活用してエンターテイメント性の高いイベントの提案が可能です。イベントの内容も、お客さまがご自身で飼っているペットと一緒に参加をして楽しめるものが理想ですね。こうしたことをコストを惜しまずに提供し続けられるかどうかが、長期的にみれば、当社のみならずペット業界の発展を考えるうえで重要な鍵となる気がします。

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