つながる動物と人の看護業界

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下薗:では、赤谷先生から何かご質問ありますか?

赤谷:はい、日本において動物のリハビリテーションは、人に対してのリハビリをしている理学療法士が介入して行うことがほとんどなのですが、アメリカでのリハビリテーションも、人の理学療法士などの動物看護師とは別の方が介入しているのかをお聞きしたいです。

八木:アメリカでは、人の理学療法士が動物に対してもこういうことができるんだと動物に対する知識をどんどんつけて、教科書を書いたり、セミナーをしていたりするうちに動物の理学療法への介入が拡がっていきました。整骨院というのがありますが、日本ではそこで働く方々は医者として認められていますか?

下薗:あん摩・マッサージ・指圧師は国家資格ではありますが、医者ではないです。

八木:アメリカでもそうです。獣医療側から考えて、動物と人間とでは違うことがあって、あまりわかっていないところで人間と同じようにやっても効果があるかどうかわからないですし、逆に悪い効果もあるかもしれません。それで獣医師としての資格がなければ、獣医療を行わない方が良いという考えで、人の理学療法士と対立しています。
 動物看護師もそれと似たようなもので、人の理学療法士に教えてもらい、知識は増えてきているのですが、最終的には動物に対しての教育を受けた人がやった方が医療や看護としての効果を最大に引き出せるはずだと考えられています。動物に対する理学療法の資格を作り、その資格を持っている人でなければ動物に対してのリハビリはできないという法律ができ始めています。

下薗:人の理学療法士から学ぶことも多いですけど、やはり人と動物は構造が違いますからね。すべてがそこで正当化されてしまうと危険だということは日本の獣医師会でも言われていますし、動物看護師もそのように考えていますよね。

八木:人と動物の垣根なく、「ひとつの健康」として両分野が互いに協力し合おうとする“One Health”という考えがあり、それに賛同する団体は、獣医師も人の医療をやっている人たちも知識を出し合い、一緒に仕事をしています。僕が働く動物病院の近くのThe Marine Mammal Centerという、アザラシやアシカといった海獣を扱っている施設では、人間の超音波に関するスペシャリストを呼んで、それを参考に動物に活かそうと協力し合っています。どちらも自分たちのやっていることから学ぶことが多くあるので、それは本当に良いことだと思います。

下薗:そうですね。日本でも日本医師会と日本獣医師会が協同して、今おっしゃったOne Healthという考えをすごく求めるようになっています。
 日本の場合は、獣医療というのはどちらかというと食の安全という面が大きいです。食と公衆衛生ですね。そういった感染症予防などが獣医師の担当なので、そこと人の医師とが色々とコラボレーションしようとして、来週2016年11月10日に世界大会が小倉で開催されます。私も行きますのでみなさんに情報をお伝えしたいと思っています。
 一方で、人の看護師と動物看護師が交わろうという動きも起こっています。 “PINK CROSS PROJECT”という人の看護師の団体が、先日11月1日から始動した防災ナース(防災の正しい知識を備えた看護師)の育成事業では、動物看護師と連携し、災害時に動物と一緒に避難する同行避難等の防災知識について普及啓発が行われました。
 アメリカでは動物看護師と人の看護師の交流はあまりないですか?

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八木:そうですね。正式なものは今はないかと思いますが、アメリカで動物看護師として働いていた人たちが人間のための看護師となる、または人間のための看護師として働いていた人たちが動物の看護師に転向する、というのはかなり多く聞くようになりました。動物と人間の両方の看護師の資格を持っている人が増えてきています。
 また、アメリカの動物看護師の職業としての今の目標は、資格の統一化です。そのための一つとして、動物看護師の呼び方をVT(Veterinary Technician:獣医(学)の、技術者)ではなく、VN(Veterinary Nurse:獣医(学)の、看護師)に変えたいという案が出てきています。VNと名称を変更した場合、人間のナースと呼ばれている人たちに、どういうふうに思われるかというのを考えていかなければならないので、全国的に人の看護協会や看護師を管理している団体と話し合いを進めています。どんどん獣医療と動物看護が発展していくにつれて、看護に重点が置かれるようになり、これからは人の看護職と同じようにそれぞれの専門分野での資格が必要になってくると思うんです。

下薗:そうですね。わたしたちの学校でも今までは獣医師が教育を行ってきていたので、どうしても観点が医療観点といいますか、治療する観点で動物看護師を養成していたんです。ですが、日本動物看護職協会ができて動物看護というものをもう一度見直したときに、その観点は専門職として違うのではないかという考えに至りました。最近では、大学で動物看護学を学んだ方たちが一つ風を吹き込んでくれています。動物看護は専門職として獣医療とは違う立ち位置であり、動物の身体全体を看ることができる観察力の優れた人材育成を目指して、シモゾノ学園では教育をさせていただいているんです。赤谷先生もそうですが、池田先生は特にその教育を受けていると思うのですが、自分がイメージして入学して来たときの動物看護師と、勉強を受けてみて実際はどうでしたか?

池田:はい、最初はやはり動物を助けたいという気持ちから入ってきたのですが、そこから徐々に専門知識を学ぶことによって、複雑なところも知りました。それでももっと学びたい気持ちもあり、専門知識はゼロから学ぶことがとても多いのでそれを吸収することによって将来性をとても感じられました。それと同時に、楽しいだけではやっていけない、動物をかわいいと思うだけではやっていけないということがわかりました。動物を助けたいという思いを頂点に持った上で、考えてやっていかなければならないという気持ちにはなりましたね。

下薗:イメージしていたのはどういうお仕事でしたか?

池田:私の飼育していた動物がお世話になっている地元の動物病院に男性看護師が1名いたんです。獣医師のそばで手助けをする姿から、幅広い業務を想像していました。

下薗:動物看護師が専門職として独立・確立し、ますます活躍して行ってほしいなあと思い、私も一生懸命応援しているところです。

IAC