アメリカの動物看護師の役割と実態

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下薗:私たちの学園で教える動物の理学療法教育は、そもそもアメリカで学ばせていただいて作っているのですが、八木先生の病院でも動物のリハビリテーションは行っているのですか?

八木:動物のリハビリテーションを専門でやっている人はいませんが、最近になって力を入れるようになってきています。アメリカで認められている動物看護師の専門分野にちょうど2日ほど前、14番目の専門分野ができました。15番目がリハビリになるのだと思います。カリフォルニアでもリハビリを行っている方たちに対しての資格があり、その資格を持っている人は何をすべきなのか、資格を持っていない人は法律上、何を規制すべきなのか、という議論がされています。動物のリハビリの価値は理解されていますし、今後発展していくと思います。

下薗:動物看護師の分野で14分野もあるのですか。最近追加された分野は何ですか?

八木:眼科が約3ヶ月前に13番目の分野として追加され、14番目として、研究所にいる猿やモルモット、ネズミ、ウサギといった実験動物のための専門分野ができました。

下薗:実験動物も対象にするんですね。

八木:そうですね。

下薗:おもしろいですね。それぞれに動物看護としての専門分野があるわけですね。誰がそれらを作っているのですか?

八木:NAVTA(National Association of Veterinary Technicians in America)というアメリカの動物看護師の協会が委員会を運営しています。専門分野を作る人たちが集まり、委員会で提示された要件を満たすための討議をし、専門分野追加への申し込みをします。

下薗:なるほど。では、エキゾチックアニマル分野と動物の理学療法分野はシモゾノ学園のこの3人で企画し、NAVTAの中で作り上げていっていただかないといけませんね(笑)。
 新國先生が担当されているエキゾチックアニマルは、アメリカの八木先生の病院にも来院しますか?

八木:けっこう見かけます。ほとんどが犬と猫ですが、それ以外の動物もペットとして飼育している人はいます。最近人気は落ちたかなと思いますが、フェレットが多く来ています。ちなみにカリフォルニアではフェレットを飼育するには、ライセンスを持っていないといけないんですよ。他にはラット、ハムスター、モルモット、ウサギも病院に来ます。爬虫類は珍しいですが、たまに来ますね。

下薗:アメリカでは爬虫類は珍しいんですね。日本ではどうでしたか。

新國:私が勤めていたエキゾチックアニマル専門の病院では、診察に来る動物は、ウサギやモルモットなどの小型の哺乳類が6~7割で、爬虫類は2割くらいを占めていました。ヘビやトカゲ、一番多いのがカメですね。ミシシッピアカミミガメとかリクガメが多いです。

八木:そうですか。アメリカではヘビがいちばん珍しいかな。あとはトカゲが意外に多く、カメもたまに診療に来ます。甲羅を治すとか(笑)。

下薗:そうなんですか!

新國:事故にあったときの治療ですよね。あとは手術のためにカメの甲羅を開けたりとか。

八木:甲羅を開けるんですか。すごいですね。私の病院ではそこまではやってないですね(笑)。

下薗:新國先生の勤めていた病院は、エキゾチックアニマル専門の病院ですもんね(笑)。 日本は居住空間が広くないということも、エキゾチックアニマルを飼育する人が多い理由かなと思いますが、アメリカは住居が広いので、ウシやウマもペットとして飼育している方もいらっしゃいますよね。日本は狭いので、ウサギや爬虫類を飼育する人が多いのかもしれないですね。

八木:そうですね。アメリカでは大動物のアルパカやミニブタを飼っている人もいます。

下薗:アルパカですか?

八木:はい。アルパカの帝王切開もやりましたよ。

一同:えー!

八木:ルース先生は、“全ての動物を扱えるべきだ”という精神を持っていらっしゃる獣医師だったので、なんでもやる人だったんです。だからものすごく勉強になりました。
 アルパカの手術のときには専門の大学病院へ電話して、こういうことがあるのですがどうしたらいいでしょうか?と聞きました。すると親切に、これに気をつけて、こういう薬品を使ってやります、と教えてくれました。そのおかげで無事に手術ができました。

下薗:そうでしたか。

八木:こういったことは16年間勤めていて3回くらいです。

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下薗:3回もですか!
 それでは八木先生の驚きのご経験をお聞きしたところで、みなさんから八木先生へ質問をお願いします。

新國:アメリカで動物看護師をしていて感じること、日本とアメリカの動物看護師の違いは何かありますか。

八木:動物看護師としてどれほどの役割をもらっているかという職域の違いが一番大きいと思います。日本では法律が曖昧で、どこまでが違法で、どこからが違法でないのかがわからないみたいで、それが理由であまり活躍の場が与えられていないと聞いています。例えば、場合によっては受付や掃除、少しだけオペや保定を手伝うだけで、仕事が終わりのところもあるということにびっくりしました。
 アメリカでは法律上、資格を持っていれば、獣医師は診断・予後・処方・手術ができます。動物看護師の資格を持っている人たちもこれら以外でしたらできるということが多いです。アメリカでは動物看護師という職業が公的に認められています。アメリカ50州の内37州にそれぞれ法律上、役割が指定されていて、10州くらいが民間の機関・協会などが資格を出していて、こういうふうに働くべきであるということを提示しています。
 動物看護師の資格を持っていると、カリフォルニアだと麻酔をかけることができます。歯科に関する施術、傷痕や切開した後の皮膚の縫合、カテーテルを入れるための切開もできます。また、麻酔に使うケタミンなどの中毒性が強く、コントロールが必要な薬品も動物看護師の資格があれば、獣医師に監督されなくても使うことができます。獣医師にしかできないとされる4つ(診断・予後・処方・手術)以外は、獣医師の監督が必要かどうかのレベルが異なるだけで、動物看護師の資格を持っていても、持っていなくてもアメリカでは全部できることになっています。ですから、うちの病院の動物看護師は動脈カテーテル、骨髄内カテーテルや中心静脈カテーテルを入れたり、人工呼吸器をつなげている動物の看護をしたり、静脈注射や麻酔投薬も行っています。個人個人の技術・技量によってできる、できないはありますが、職域の広い動物看護師はそれらすべてができ、獣医師と一緒ではなく、自立して働けています。その上、技術面だけではなく考える仕事もやるようになっています。ICUで働いている動物看護師は、自分で管理している患者がいて、呼吸、心臓、循環を自分で評価して、獣医師にこういう変化があり、こういうことが心配なので、こういう対処をしてみませんか、という提案まで行います。

下薗:やりがいがありますね。

新國:日本とは全然違いますね。

八木:2007年度頃の調査によると、資格を持っている動物看護師を雇った病院の方が年間の収入が動物看護師一人につき、970万円多くなったそうです。資格を持っているかどうかではなく、資格を持っている動物看護師が病院で幅広い仕事を任されているかが重要なことです。

下薗:日本もそこをわかってもらいたいところです。有能な人材がいれば、それだけ発展するんですよね。
 人の医療でも、医師会の話を聞くと、看護師よりも准看護師という役割が限られている方たちを雇う方が給料は安く済んで良いと思われてしまうこともあるらしいです。ですが、私は八木先生が今おっしゃってくださったようなアメリカで大発展をされている動物病院のように、やはり有能な方が揃っていると、それだけ成績が上がっていくんじゃないかなと思いますね。

八木:獣医師さんたちに、アメリカではこんなシステムがあるという例を見せることができますし、日本でも動物看護師をちゃんと活躍させている人たちがいるはずなんです。その成功例を活かし、より良い職場環境を作り、獣医師と動物看護師がお互いに支え合うことができるといいですよね。

下薗:そうですね。意識の高い動物病院の院長先生や獣医師さんたちの間では、盛んにそういったことが検討されているのですが、まだ少ないですね。頭では優秀な動物看護師が現場に参加した方がいいと思っているはずなので、良い事例として見せることができれば、もっともっと拡がっていくんだろうなと思います。

IAC