トリマー業界の昔と今

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下薗:それではこれからのトリマー業界について、日本ペットサロン協会での役割も含めて教えていただけますでしょうか。

根本:私は委員会を担当しています。広報や会員満足、ボランティア活動を推進します。今は現場の状況にあった発案をして方向性を見定めています。

中島:根本さんはトリマー目線で活動をしています。トリマーという技術者とつながり、彼らがこの業界で活躍できるように活動をしていきます。会員満足にもつながります。

根本:トリミングサロン同士、横のつながりを築き、個々の知識を共有していけると業界も活性化するのではないでしょうか。

下薗:そうですね。以前はどの動物業界でも、個々に伸びていくことはしてきましたが、団結していくことも必要な時代になってきたと感じますね。森部さんの役割はどのようなものなのでしょうか。

森部:私は役割というのは特になく、会員です。

中島:森部さんの存在が、実は協会に大きな役目を果たしているのです。

下薗:広告塔のようなものでしょうか。

中島:そうなんです。トリマーであって経営もしている、という森部さんのようなスタイルは珍しく、オンリーワンな存在です。

下薗:頼もしいですね。

森部:いえいえ。

中島:見た目は現代風なのですが、中身がしっかりしているんです。

下薗:その通りですね。国際動物専門学校には、学校を外部の目で評価をしていただく学校関係者評価委員会という組織があり、森部さんに委員を務めていただいていました。一言一言が重く、いつもズバッと指摘してくださって学内の改善に活かさせていただいており、すばらしい視点をお持ちなのだと思っています。印象深いことばがいっぱいあります。
中島先生は協会の立ち上げメンバーで、もう核のような存在ですよね。

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中島:ここにいるお二人同様、トリマーは職人の集団です。トリミングをしているオーナーさんたちだけで団体を作り上げていくことができるとは当時から考えていませんでした。そこに、ペット業界とは別に、外部からお招きしお力をお借りして立ち上げました。理事長の田中健司さんはトリマーではなく会社経営者です。団体として骨組みを作り、そのおかげで我々が生き生きと活動させてもらえています。

下薗:立ち上げまで、時間をかけられたと伺ったことがありますが、そういった経緯からなんですね。
中島さんがこの業界に携わってきた30数年間のご経歴を振り返ってみると、過去と現在のお客さまのニーズはどのように変化してきましたか。学園では、現在のニーズに合わせた教育を行うことを目標としていますので、具体的なことを教えていただけますでしょうか。

中島:そうですね、いろいろとあります。まず変わっていないものとしては、トリミング料金です。私が新人だった約30年前、千葉県のトリミング相場としてトイ・プードル1頭につき4,000円から5,000円でしたが、現在とそれほど変わりがありません。

下薗:そうなんですね。

中島:はい。全国平均でもトイ・プードルは1頭6,000円ほどです。都内やとくに世田谷区は高めに設定されている場合もありますが、それは特殊です。トリマーは職人気質の方が多く、いわゆる「日本人ぽい」印象です。こだわりが強く、まじめで、お金に対して謙虚な方と多く出会ってきました。「こんなサービスをしてあげたい」と、サービスにしてしまうのです。器用で丁寧で、時間がかかっている割には料金を取らないということが問題だと感じています。料金は変わらない中で、国で定められた最低賃金は上がってきていて、店舗数も増えています。

下薗:そうですね。30年前と比べて、お客さまの求めるものも変化してきていますか。

中島:実は、そこに私が問題を感じている点があるのです。私たち職人であるトリマーが考えているものと、お客さまの求めるものに溝がある場合があります。たとえばプードルの毛は、トリマー視点では「伸ばす」ことが当然です。「伸びていないと恥」と感じることもあります。そのため一生懸命にシャンプーで洗って、丁寧に乾かしていきます。専門学校で学ぶ、基礎中の基礎ですよね。
 私が最初に入ったプードル専門の施設では、ブロー後に少しでも伸びていないだけで、洗い直しをさせられるくらい厳しいものでした。でも、一般の飼い主さんは、あのプードル特有のパーマを気に入っている方も中にはいらっしゃいます。まったく意識が違うんです。

下薗:現代の教育では、ショードッグのトリミングが基本になっていましたよね。よく皆さんがお話をされる中で、お客さまが通うペットサロンでは、スタイルが違うのではないかという点が挙げられますが、本来はお客さまが求めるペットサロンでは、スタイルがちがっていることもあるため、専門学校教育ではお客さまのニーズとなるスタイルに力を注いだ方がよいのではないかと感じています。

IAC