動物たちとの付き合い方

増井 光子先生

増井:チンパンジーにしろ、ゴリラにしろ、ゾウにしろね、力でいけば人間なんか絶対かなわないんですよ。だから、よく人間の言うことを聞いてくれているなと思う時ありますよね。

下薗:それはお互いが理解し合っているということなんでしょうか。

増井:そうですね。たとえば、毎日怒ってばかりいてなかなか褒めてくれないとか、振る舞いが乱暴だったりすると、動物がピリピリしたり、いらいらしてきますよね。その場合でも、最初はがまんしてるんだけど、ある時積み重なったものが爆発すると、大きな事故につながることもあります。ゾウの場合、人身事故を起こすと、致命的ですから。だから普段からガス抜きも必要ですし、動物が喜ぶようなこともしてやらないとない。かといって好き勝手やられても困る。だから動物との付き合い方というのも、人付き合いと同じですよね。

下薗:なるほど、そうですか。ガス抜きというと、できるだけ広いところで運動させたりとか?

増井:あとは、動物が体当たりしたりかじったりしても大丈夫そうなものを置いておくとかね。イライラしたらそれに体当たり。

下薗:すごいですね。そういった場面は私どものような来園者には拝見する機会はあまりないでしょうか。

増井:見ようとして見られるものではないのです。大抵、人や飼育員がいない時に扉を壊したりしていますから。大勢人が見ているところではやらないですよ。

下薗:やっぱり意識があるのですね。賢いですね!そうすると、動物園において一番苦心をするという動物は、ゾウになりますか。

増井:体が大きいだけにゾウには気を使います。利口で社会性が高いんですよ。トラやライオンは噛みつかれれば大変ですが、人と同じ動物舎内での作業はありませんから、ゾウに比べれば扱いやすいです。直接触れることもないですし。でもゾウの場合は爪の手入れやブラシかけといった、触れ合う作業が多いんです。それでその時に事故が起こるんですね。

下薗:そうですか。じゃあ微妙な変化をこちらが感じ取ってあげないと、大変なことになりますよね。

増井:ええ。その上、記憶力がいいから、いじめられたことをずっと根に持ってたりして。

下薗:そうですか!じゃあ、お互いに愛情の行き来があるんですね。

増井:だからもう、他の動物だと物足りないという人もいます。類人猿もそうなんですが、担当した人はよく、ほかの動物はできないって、言いますね。人の付き合いと一緒だというんです。

増井 光子先生

下薗:反対にすごく学ばされて、人間社会に出た時にとても有効に使えますね、その経験が。

増井:それと構いすぎてもよくない。そのバランスは難しいんですが。私が非常に感心したのはね、ある動物園に、保育士だった人が、荒くて荒くて何人も危ない目に合わせた雄ゾウの飼育係となりました。でもその飼育係の人は、そのゾウの耳から採血できるっていうんですよ。

下薗:その元保育士さんは何が違ってたんですか。

増井:自分は特別なこと何もしてないと言われるのですが。保育園で小さなお子さんと接している経験の中に何かあると思うんですよ。いろいろ聞いてみると、決して付きっきりにへばりついて、ずっと動物にかまっているというわけでもないんですよ。ただ、ゾウを見ているとその日の気分が分かると言っておられました。

下薗:なるほど。

増井:こう、じっと見てると、動物のほうも見張られてるんじゃないかと感じるんですね。例えると、親は子のことが心配であれこれかまっても子供はうるさいと感じるでしょう。

下薗:よくありますね。

増井:それだと息が詰まるじゃないですか。動物も一緒なんですよ。飼育員の立場というのは本来非常に複雑で、動物にとっては上役であり、それから、まあ、保母さんであり、仲間であり、いろんな役割を持たないといけないんですよ。ですので、その飼育員さんは、人、動物の区別なしに、言葉ではないコミュニケーション能力や、気持ちを感じ取る能力が身についていた…ということではないでしょうか。

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